澤口くんのこと(蔵野)
澤口くんとは大学3年の頃に、ふとしたきっかけで意気投合し、急速に親密になった。
学校の帰りにバイクで送ってくれたり、時には朝まで飲み明かしたりもした。
ふと思いつきで「卒業したら、一緒に住まないか」と言ったら、「住もうか」とものの数秒で返事をくれた。
その言葉どおり、大学を卒業してからは一緒に高円寺のボロ家に住み、毎日お酒を飲んで、絵を描いて、くだらない話や絵の話をしたり、ギターを弾いたり、楽しい毎日だった。
あの頃は将来のことは何も考えていなくて、貯金もなく、その日暮らしだった。
このままおじいさんになるまで、高円寺のボロ家で過ごすのも悪くはないと思っていた。
あれから、澤口くんは名古屋の植木屋さんに就職して、いまは名古屋支部の店長をしているという。
毎日会っていたのに、今では2年に1回くらい電話する程度。
いつか名古屋に遊びに行くよと言い続けて、あっという間に10年経ってしまった。
仕事で忙しい中、いまでも仕事後や休日に絵を描いているという。
あの頃、よく乗せてくれたバイクは、もう売ってしまったらしい。
澤口くんの弾いていたギターの音色、絵を描いている姿が懐かしい。
僕もまだ絵を描き続けていて、たまにギターも弾いている。
今年は時間が出来たら、名古屋に遊びに行きたいと思う。
毎年そう言いながら、10年経ってしまったけれど。
蔵野