ぼんやり・・・その一
松本竣介(1912~1948)という絵描きさんがいます。作品の中に「Y市の橋」というのがある。魅せられて、出来ればその現場に立ってみたいと思った。かれこれ30年前の話である。
教室の生徒さんに横浜の港風景を描きすすめているひとがいます。勝呂さんです。勝呂さんは生粋の横浜ッ子で、「Y市の橋」はよくご存知です、場所も知ってますよと私に教えてくれた。勝呂さんはプロのガイドのよう。橋のことは言うに及ばず街の概要や変遷を印象づけて話してくれる。たまらず私はまるで修学旅行のようだと叫んでしまいました。
東神奈川駅から始まり、横浜、桜木町に向かう行程予定である。我々の歩行の軌跡は海岸線に沿って動いたので、烏口定規で引いた太い弧を描くように進んだ。冬日和にかかわらず温かく優しく撫でる様な浜風は、私は少しエロチックにも感じた。
手前奥が現在の月見橋。「Y市の橋」を求めてここまで来たが、描かれた当時の面影はない。正確には1944年5月29日の空爆で焦土となり、跨線橋の梁も落ちてこの日消えたのだ。
今、私はここから隣りのJR横浜線の線路を仰ぎ見た。架線向こうの空まで見やった。
私は何を見ているのだろう。無意識の世界なのか恣意的なのかよく分からないが、昔からぼんやり見ている、ぼんやり考えている、ぼんやり思っている。
月見橋を去る時に、私の胸の内は、また来るねと言う。月見橋に、自分に、一体誰に言っているのだろうか?過去も現在も未来もぼんやり見てみたいのは変わらないのに。
佐藤