『絵を描いています』(孫崎)
「お仕事何されているんですか?」
初対面の人にこう聞かれると、
いつも答えるのに、もごもごしてしまう。
「絵描きのようなものをしています」
なんとも歯切れが悪い返事だ。
「画家です」と言い切るには
何だか気が引けてしまう。
ましてや「芸術家」「アーティスト」だなんて
口にするだけでも奥歯が痒くなるぐらい恥ずかしい。
そもそも画家って何だろう?
と考えてみる。
”画家”
絵を描くことを職業とする人、絵描き(広辞苑)
現実には絵を描くことだけで生活している人は
ほんの一握り。
多くは他に教師や講師、
まったく関係のないアルバイトなど
兼業している人がほとんど。
むしろ画家としての収入は皆無に近いことも。
果たしてこれで画家を職業として
名乗って良いものか・・・。
先のフニャフニャした私の回答も
こんな所に依る。
ちょっと調べてみたところ
村上龍氏の「13歳のハローワーク」に
画家についてこんな記述があった。
「画家にとって、もっとも大切なことは、
絵を描き続けることである。(中略)
何でもいいから、とにかく描き続けることだ。
絵が売れても、売れなくても、
絵画表現の意欲と喜びとともに、
何年も何十年も絵を描き続けることができれば、
その人は画家である。」
また、故・堀越千秋氏が
以前エッセイにこんなことを綴っていたのも
記憶している。
「絵描きとは、絵が好きなわがまま者が、わがままを貫き通して死ぬまでの名前です」
どうやら画家というのは、
職業というより生き方に近いような気がする。
だから「絵描きのようなもの」という
曖昧な受け答えは
あながち間違っていないのかも知れない。
とは言え「のようなもの」なんて付くと
じゃあ何なんだ?となってしまう。
そんなわけで、最近は職業を聞かれたら
こう答えるようにしている。
「絵を描いています」
この方が何だかスッと自分の中で腑に落ちる。
どのみち質問した人が受け取る内容は
そんなに変わらないのだけれども・・・。
孫崎