愚にもつかない話(柳田)
今年も花粉が飛んでいる。悩ましい。
が、鼻をくすぐるのは花粉だけではなく、道を歩いているとふと良い香りに気付くことがある。
沈丁花。この花が昔から何となく好きだ。秋の金木犀、春先の沈丁花は目よりも先に鼻が見つける。気付いて辺りを見回すとどこかの庭先に咲いている。
人間は普段は感覚のほとんどを視覚に任せているところが大きいと思う。ほとんどと言うのは言い過ぎか、ただ視覚に頼るところは大だ。
だが嗅覚に時折驚かされることがある。記憶との結びつきだ。何かの匂い、場所の匂いを嗅いで、無意識に何かの場面が甦ることがある。それは記憶しているとも意識していないような、思考や知識とは別の部分にある記憶とでも言うか、皮膚感覚のレベルでゾワリとするような感覚だ。場面が丸ごと甦ってゾワリとすることもあれば、感覚だけで具体的なことが思い出せずにもやもやすることもある。
まだ寒いが外の空気が春の匂いになってきた。木の芽立ちはあまり得意ではない。沈丁花の香りで私が何を思い出すかは、秘密だ。
柳田