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ぼんやり・・・その4 サイカチの事 (佐藤)

去年(2015年)。年末30日に携帯電話が鳴った。「時間はある?そっちに行っていいか」と言う。相手は自分のアトリエで制作がかりで忙しいという、それでも抜けらるのでこれから会わないかという。私は今は難しいと断りの物言いをした。そして、「むしろ、自分の方からそっちのアトリエに行っていいか」と催促した。

細川貴司さんは、来春の展示のため、急ぎ支持体作りが既に始まっているという。アトリエの天井の高さや広さが私の想像を超えて目に入って来る。彼の話を聞きながら、わたしは彼の家族や生活に思いを馳せた。ここにある作品素材や工具を見ているだけで作家の生業を示しているように感じた、物が美しく在る。帰り際、彼が車の窓から突然遠くの建物をゆびさした。アトリエの裏山に突き出た灰色のシルエットは・・・展望台だという。こちらが強く興味を示すと、行こう、案内するという。

筑波山、武甲山、雲取山、富士山の頂を確認する。高尾山、狭山丘陵、新宿高層ビルが見えた。スカイツリーが見えた。私はこの数日間家から出ず、実はモヤモヤクヨクヨしていたのだ。2015年は二十数年間続けていた岩手の詣でが途切れた。また、同じく二十数年間続けた年忘れコンサートを止めた年になった。この日この時間に確かに私はここにいる、ワシの身体一回りが連なる山稜と遠くに煙る東京なのだ。その後、ぼんやりとした気分が襲って来た。連なる山々がおふくろの節々曲がったリュウマチ手の指に見えて来る。狭山丘陵はナマコ胴体か。スカイツリーは今朝見たスイセンの花芯と繋がる。

私のデタラメさにもほどがあるが、私の「見る」自由のためには、みんなが付けた「名前」を疑う。視覚の呪縛を自由に解き放ちたいと思う。お前さん! 決して「読んじゃだめだぞ」。「見る」はオレの言霊をあたえることなんだと、、、思う。「読んじゃダメ」。「見る」はお前さんがそのものを受け止め感じて、つかんでいいんだぞ!という気分。

ややこしいが、地球人生や宇宙人生のためにお前さんの能(あた)うかぎり言霊(ことだま)さがしをやってもいいかなと思う。 まわりの山々が笑っている・・・誰にも聞こえないように展望台を見やり「ありがとう」と山々に挨拶した。最後に今日の出会いに感謝し、細川さんにお礼を言って帰宅した。

2016年。年が明けて鷹觜さんから卒業制作展の招待状をいただいた。会場に詰めている日時が指定してあった。携帯にもメール招待があった。1月18日(月)今年一番の寒気到来は銀世界を運んで来た。彼女の大学展示アトリエ、ドアには張り紙が貼り付けてある、「大雪で、雨漏りのため閲覧中止」と。帰途、濡れた足下を引きずり電車に乗った。電車の中で、私の卒業制作時を思い出していた。二点の内の片方の画題は「サイカチ」というものだった。

実はわたしは二日前の1月16日土曜日に、「サイカチ」の取材を目的に御茶ノ水に出掛けたばかりだったのだ。

(次回に続く)

佐藤

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佐藤比呂二 2016/01/31 01:57

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