映画
映画を二本観た。
「野火」
「シロナガスクジラに捧げるバレエ」
学生の頃は単館映画も足しげく観に行ったものだが、一月の内に映画館に二本観に行くのは随分久しぶりだった。
「野火」は高校生の頃に大岡昇平の原作を読んで衝撃を受けた。衝撃の記憶は鮮明だが随分前に読んだ小説でもあり、細部まで覚えている自信はなかった。だが映画を観てまざまざとその衝撃が甦った。
小説の映像化で映像が優っていた経験はあまり無いのだが、この映画は観ている私に文章的な印象を思い出させるものだった。
物語についてはあえて触れない、
人間が人間であるが故に人間でなくなる、それでも人間であるという恐ろしさ。そこに自然は美しく存在し、残酷なまでに沈黙する。
そんなことを呆然とした頭で思い浮かべながら帰路についた。
あと、リリーフランキーさん演じる役の印象が(というかその役を演じるリリーフランキーさんが)、同じく武田泰淳の「ひかりごけ」に出てくる船長の印象を思い起こさせた。恐かった。
「シロナガスクジラに捧げるバレエ」はセリフは無く、チェロとピアノによる音楽のみの無声映画。
友人の縁があって観させてもらった。
ちょっと「蛍の墓」を思い出した。
二本の映画とも、物語は全く異なるが、人間の織り成す所業の周囲で大自然が圧倒的に美しいのが印象的だった。
人間の有り様には関係無くただ存在し、美しいと感じたり、癒されたり、或いは脅かされたり侵食するのは人間側で、自然は人間が何をしようと無関心にあり続ける。
少し前に描き上げた自分の作品に、海に関する言葉をタイトルとして付けた直後だったこともあり、そんなことが妙に気になった。
柳田